おひとりさまの認知症対策は?50歳を過ぎたら考慮するべき4つの選択肢を徹底比較
認知症対策の記事を読むと、たいてい最後は「家族信託が柔軟でおすすめです」で終わります。
ところが、頼れる家族がいない人がその記事を読んでも、何の解決にもなりません。家族信託は、財産を託せる家族がいて初めて成立する仕組みだからです。
おひとりさまの認知症対策は、家族がいる人とは前提そのものが違います。選べる手段が少なく、しかも手続きに時間がかかる。だから準備を始めるタイミングも早くなければいけません。
ここでは、実際に選べる4つの手段を、費用と限界まで含めて比べてみます。
先に結論だけ
・認知症が進んでからでは、どの契約も結べなくなる。これが唯一にして最大の制約
・家族信託は、受託者がいないおひとりさまには現実的に使えない
・中心になるのは任意後見契約。ただし単体では生前の空白期間をカバーできない
・財産が少なめなら社会福祉協議会の公的制度が有力。費用が桁違いに安い
・実務上は複数を組み合わせるのが前提になる
なぜ50代から考える必要があるのか
認知症になってからでは、契約そのものができない
これから紹介する手段のうち、3つは「契約」です。
契約を結ぶには、その内容を理解して判断する能力が必要です。つまり、判断能力が十分にあるうちにしか使えません。
認知症が進行してから慌てて任意後見契約を結ぼうとしても、もう手遅れになります。残るのは、家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見だけです。誰が選ばれるかは、本人には決められません。
この一線が、認知症対策のすべてを規定しています。
おひとりさまが直面するのは、口座凍結だけではない
認知症と財産の話題では、銀行口座の凍結ばかりが取り上げられます。ただ、実際に止まるのはそれだけではありません。
介護施設の入居契約。賃貸住宅の更新や解約。自宅の売却。保険金の請求。携帯電話や公共料金の解約。入院や手術にあたっての意思確認。
家族がいる場合、これらは事実上、家族が動いてなんとかしている場面です。法的に正しいかは別として、現場が回っています。
おひとりさまには、その「なんとかする人」がいません。だから制度で用意しておくしかない。50代から考えるべきだというのは、そういう意味です。
選択肢① 任意後見契約
どういう仕組みか
判断能力があるうちに「将来これが低下したら、この人に財産管理や手続きを任せます」と決めておく契約です。公正証書で作ることが法律で定められています。
最大の利点は、任せる相手を自分で選べることです。法定後見では裁判所が選任するため、面識のない専門職が就くこともあります。
費用
契約時にかかる公証役場の実費は次のとおりです。なお公証人手数料は2025年10月1日に改定されているため、古い解説を見るときは注意してください。
費目 | 金額 |
|---|---|
公正証書作成手数料 | 1契約につき13,000円(改定前11,000円) |
登記嘱託手数料 | 1,600円(改定前1,400円) |
登記印紙代 | 2,600円 |
正本・謄本代など | 数千円程度 |
合計で2万〜3万円ほど。契約書の原案作成を専門家に頼むと、これに10万円前後からが加わります。
本当の負担は、発効した後に来る
ここが見落とされやすい部分です。
任意後見契約は、結んだだけでは効力が生じません。実際に判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任して初めてスタートします。
そして発効すると、監督人への報酬が毎月発生します。東京家庭裁判所が公表しているめやすでは、管理財産が5,000万円以下で月1万〜2万円、5,000万円を超えると月2万5,000円〜3万円とされています。この金額は家庭裁判所が決めるもので、こちらから交渉することはできません。
任意後見人を専門職に頼めば、その報酬が月2万〜5万円ほど別途かかります。
仮に監督人に月2万円、任意後見人に月3万円で10年続いたとすると、合計600万円。契約時の2万〜3万円という数字とは桁が違います。
おひとりさま特有の壁
もうひとつ、おひとりさまにはこの制度に固有の問題があります。任意後見人を誰に頼むのかです。
家族がいる人なら子や配偶者に頼めます。頼める相手がいない場合、専門職や法人に受任してもらうことになりますが、これは「引き受けてくれる相手を自分で探す」作業になります。
しかも相手には、自分より長く活動を続けてもらう必要があります。個人の専門家に頼んだ場合、その人が先に引退したり亡くなったりする可能性も考えなければなりません。
選択肢② 家族信託(民事信託)
仕組みとしては最も柔軟
自分の財産を信頼できる人に託し、あらかじめ決めたルールで管理・処分してもらう契約です。
認知症対策として評価が高いのは、判断能力が低下しても受託者が財産を動かせるからです。自宅を売って施設費用に充てる、といったことが裁判所の関与なしにできます。任意後見のような監督人報酬も発生しません。
ただし、おひとりさまには使えないことが多い
柔軟なのは事実ですが、この仕組みには決定的な前提があります。財産を託す相手(受託者)が必要だということです。
そして受託者は、誰にでも頼めるわけではありません。報酬を得て業として信託を引き受けるには、信託業法上の免許や登録が必要になります。そのため、弁護士や司法書士といった専門家が個人的に受託者を引き受けることは、一般的にはできません。
結果として、家族信託の受託者になれるのは、実質的に家族や親族に限られます。甥や姪に頼む方法もありますが、数十年にわたって他人の財産を管理してもらうことになるため、関係性の薄い相手に気軽に頼める話ではありません。
認知症対策の記事で家族信託が推されがちなのは、読者に家族がいる前提で書かれているからです。おひとりさまの場合、この選択肢は最初から外れることが多いと考えておいたほうがいいと思います。
選択肢③ 財産管理等委任契約+見守り契約
判断能力が落ちる「前」を埋める手段
任意後見契約には、構造的な空白があります。判断能力が低下するまで効力が生じないため、それまでの期間は何もカバーされません。
ところが実際には、判断能力がはっきりしていても、足腰が弱って銀行に行けない、入院して手続きができない、といった事態は起きます。
その空白を埋めるのが財産管理等委任契約です。判断能力があるうちから、支払いや手続きの代行を委任しておけます。
見守り契約は、定期的な訪問や連絡によって本人の状況を確認する契約です。判断能力の低下を誰かが把握していないと、任意後見に移行するタイミングを逃してしまうため、セットで結ぶのが一般的です。
費用と注意点
公正証書にする場合の公証役場費用は2万〜3万円程度。契約書作成の専門家報酬は、財産管理委任契約で8万円前後から、見守り契約単体なら4万円前後からという設定例が見られます。見守りの月額は、訪問頻度によって数千円から1万円台が多いようです。
注意点として、この契約には家庭裁判所の監督が入りません。任意後見のような監督人がいないぶん、受任者の裁量が大きくなります。誰と結ぶかがそのまま安全性に直結する契約だと考えてください。
選択肢④ 日常生活自立支援事業(社会福祉協議会)
あまり知られていない公的制度
4つ目は民間サービスではなく、社会福祉法に位置づけられた公的な事業です。実施主体は都道府県・指定都市の社会福祉協議会で、窓口は多くの場合、市区町村の社協になります。
受けられる支援は主に3つです。
・福祉サービスの利用援助(手続きの相談・同行・書類作成の手伝い)
・日常的な金銭管理(預金の払い戻し、公共料金や家賃の支払い代行)
・通帳や権利証など重要書類の預かり
費用が桁違いに安い
最大の特徴はここです。
厚生労働省の資料によれば、訪問1回あたりの利用料は平均1,200円程度。地域によって1時間1,500円といった設定もあります。書類の預かりは月250円〜500円程度。相談や支援計画の作成は無料で、生活保護受給世帯は利用料自体が無料です。
任意後見の月2万〜5万円と比べると、負担がまったく違います。財産が多くない方にとっては、現実的な第一候補になり得ます。
ただし、できることは限られる
安さの理由は、カバー範囲が狭いからです。
日常的な金銭管理は扱えますが、不動産の売却や大きな資産の運用、遺産分割といった法律行為はできません。入院や施設入居の身元保証も対象外です。
もうひとつ重要な条件があります。この事業を利用するには、本人が契約内容を判断できる能力を持っていることが必要です。判断能力が不十分な方を支える制度でありながら、契約締結能力そのものは求められる。認知症が進みすぎると、やはり利用できません。
手続きにも時間がかかります。初回相談から契約締結までおおむね3〜6か月、状況によってはそれ以上という案内が一般的です。思い立ってすぐ使える制度ではありません。
4つを並べて比べる
任意後見契約 | 家族信託 | 財産管理委任+見守り | 日常生活自立支援事業 | |
|---|---|---|---|---|
相手 | 自分で選ぶ(法人も可) | 家族・親族が前提 | 自分で選ぶ | 社会福祉協議会 |
効力が生じる時期 | 判断能力の低下後 | 契約時から | 契約時から | 契約時から |
初期費用 | 13万円前後〜 | 30万〜100万円程度 | 10万〜15万円前後 | 無料 |
継続費用 | 月3万〜5万円程度 | 原則なし | 月数千円〜1万円台 | 1回1,200〜1,500円程度 |
不動産の売却 | できる | できる | 契約内容による | できない |
裁判所の監督 | あり | なし | なし | なし(公的機関が実施) |
おひとりさま適性 | ◎ | ×(受託者がいない) | ○ | ○(財産が少なめなら) |
※費用は公開されている料金例からの目安です。依頼先や財産状況によって変わります。
何も準備しなかったらどうなるか
認知症が進行してから対応することになった場合、残る手段は法定後見です。家庭裁判所に申し立て、裁判所が後見人を選任します。
この制度には長く指摘されてきた問題がありました。一度始めると原則として終われず、専門職が就けば報酬が本人の死亡まで続くことです。
この点については動きがあります。成年後見制度の抜本的な見直しを盛り込んだ改正民法が、2026年6月17日に成立しました。約25年ぶりの大改正です。主な内容は、目的を達したら利用を終了できるようにすること、「後見・保佐・補助」の3類型を「補助」に一本化すること、代理権の範囲を個別に定めること、後見人の交代をしやすくすることなどです。
ただし、実際に新制度が動き出すのは2028年ごろとの見通しが示されています。そして改正されるのは主に法定後見であって、任意後見が不要になるわけではありません。
「改正を待つ」という判断は、あまり意味がないと思います。待っている間に判断能力が低下すれば、自分で選ぶ権利そのものを失うからです。
おひとりさまの現実的な組み合わせ
ここまで見てきたとおり、1つで全部をカバーできる手段はありません。実務上は組み合わせになります。
財産が比較的少なく、日常の支払い管理が主な不安
社会福祉協議会の日常生活自立支援事業を軸に、見守り契約を足す。費用を最小限に抑えられます。
持ち家がある、または一定の資産がある
財産管理等委任契約と見守り契約で今をカバーし、任意後見契約で将来に備える。3点セットが基本形です。
入院や施設入居の保証人も不安
上に身元保証と死後事務委任を加えることになります。ここまで来ると、窓口を分散させないほうが安全です。
結局、最初の壁は「誰に頼むか」
制度の比較はここまでで整理できますが、おひとりさまにとって本当に難しいのは、そこから先です。
任意後見人を誰に頼むのか。財産管理を誰に委任するのか。その相手が20年後も活動しているのか。
個人の専門家に頼む場合、引退や死亡のリスクが残ります。法人であれば継続性は高まりますが、今度はその法人が健全に運営されているかを見極める必要があります。
現実的な判断材料としては、複数の専門職が関わっているか、地域の医療機関や介護事業者とのつながりがあるか、そして自宅や入居先から駆けつけられる距離にいるか。この3つだと思います。
大阪の北摂エリアであれば、吹田・豊中・箕面で任意後見や認知症対策の相談を受けている窓口のように、地域を絞って活動しているところに一度全体像を相談してみると、自分にどの組み合わせが必要かが整理しやすくなります。
4つの制度を自分で調べて、自分で組み合わせて、受け手を自分で探す。それを一人でやり切るのは、正直かなり大変です。
年代別に、いま何をすべきか
50代
まだ契約は急ぎません。財産の棚卸しと、頼れる人がいるかどうかの確認を。ここで「いない」とわかったことが、すでに大きな前進です。
60代
見守り契約と財産管理等委任契約を検討する時期。同時に、任意後見の受任者候補を探し始めます。相手を見極めるには時間がかかるので、ここで動き出すのが現実的です。
70代
任意後見契約を締結しておきたい時期です。社協の制度を使う場合も、契約までに3〜6か月かかることを見込んで相談を始めてください。
まとめ
おひとりさまの認知症対策で使えるのは、実質的に任意後見契約、財産管理等委任契約と見守り契約、そして社会福祉協議会の日常生活自立支援事業の3系統です。家族信託は受託者の問題で選べないことが多い。
どれを選ぶにしても、共通する条件はひとつです。判断能力があるうちにしか始められません。
2026年に成年後見制度は改正されましたが、施行は2028年ごろの見込みで、待つ理由にはなりません。
50代のうちに現状を把握し、60代で相手を探し、70代までに契約を終える。この順番で考えておけば、選択肢を失わずに済みます。
※本記事の費用は、公証人手数料令および各機関・事業者が公開している料金例をもとにした目安です。制度の運用や利用料は地域によって異なり、法改正により内容が変わる場合があります。個別の判断については専門家にご相談ください。
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